最初に当院事務職員の新型コロナウイルス感染が判明したのは令和3年1月17日(日)夕方のことでした。同ウイルス感染者の濃厚接触者として受けたPCR検査にて陽性反応を示したという一報でした。時を同じくして、その前日16日(土)に日勤をしていた介護職員が勤務中に発熱等の症状を発症し、自宅療養へ移行。18日(月)に抗原検査で陽性判定となりました。相次いだ職員の新型コロナウイルス感染を受け、組織全体としての安全性確認を目的として、同日全職員全入院患者を対象にPCR検査を実施いたしました。全例陰性の結果で、感染が判明した職員間に日常直接の接点がないことから、この時点ではそれぞれ別ルートでの孤発性感染、それぞれの濃厚接触者は自宅待機で経過観察との位置づけとなりました。しかし結果的には同月29日にクラスター認定という事態になり、「268事例、医療機関クラスター③」と名付けられることとなりました。全例陰性の結果であった1月18日のPCR検査では、偽陰性が生じていたのでしょうか。それともウイルスに暴露されてはいたものの感染が成立していなかったためPCR検査で陽性と出なかったのでしょうか。推察の域を出ませんが、同じように初期のPCR検査で全例陰性だったにもかかわらず、後日クラスターに発展した他の医療機関での事例が報道されています。
268事例を経験して我々は多くのことを学びました。今回当院で経験したクラスターの全貌を公開するとともに、各職員のエッセイをまとめました。感染者・濃厚接触者になった職員、クラスター対応に当たった職員の生の声です。このたびの我々の経験が、より広く共有され、医学の世界だけにとどまらず全社会的に生かされ、今後の新興感染症対応の一助となることを期待します。同時に感染者・濃厚接触者とその家族、診療に当たる医療従事者への不当な差別や偏見が根絶されることを願ってやみません。
最後に、闘いのさなか、我々は決して孤独ではありませんでした。大混乱に陥った我々に手を差し伸べてくださった中予保健所の皆さん、愛媛大学田内教授、県立中央病院濱見先生、感染管理の疑問点に的確にアドバイスをくださった松山記念病院感染症エキスパートナース林さん、患者搬送にご尽力いただきました消防署の皆さん、温かい応援メッセージを寄せてくださった済生会松山病院宮岡院長先生、エンゼル勝美理事長先生、牧病院牧院長先生とスタッフの方々、自宅待機者が多数生じたことによる人員不足をいち早く察知し応援に駆け付けて下さった前管理栄養士Fさん、定年退職日を延長して奮闘して頂いた看護師Nさん、クラスター報道があったあとも変わらず通院してくださり応援の声がけをいただいた通院患者さんたち、クラスターをともに戦ってくださった入院患者さんたちに心より感謝申し上げます。
はじめに
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