268事例の時系列経過

1月17日(日)

15時過ぎ、事務職員本人よりコロナPCR検査陽性の一報。
→即座に濃厚接触者のリストアップを行い、中予保健所からの連絡を待つ。
16時半頃、中予保健所より連絡あり。まずは濃厚接触者のPCR検査の方針となる。
18時、濃厚接触者5名および院長、副院長、濃厚接触者には当たらないものの接触の可能性があった2名の計9名、至急参集し保健所の指導の下、PCR検体採取。
→濃厚接触者は同日より14日間の自宅待機となる。

院内緊急事態宣言発令。
月曜日から外来リハビリテーション受け入れ中止、新規入院受け入れ中止。外来も最小限の縮小診療の方針を定める。入院中の患者も退院できる方はなるべく退院していただく方向で調整。

1月18日(月)

事務員が全員濃厚接触者となったため事務部門が完全不在となる。
→急遽医師事務補助職員を事務所専属に。
→リハビリテーション科から随時交代制で2名を電話対応や受付業務に出す。
→濃厚接触者で欠員が出た栄養科にリハ科、看護科から応援を出す。
14時頃、介護職員コロナ抗原検査陽性発覚。濃厚接触者2名を自宅待機とする。
18時半頃より保健所指導の下、全入院患者全職員PCR検体採取(慣れない作業のため約60名の検体採取に午後9時すぎまでかかる)。

1月19日(火)

17時、前日のPCR検査の結果、全例陰性判定。
→これを受けて院内での感染の拡がり無し、感染者2名は独自ルートでの孤発感染ととらえ、日常診療における特別な対応は不要(入退院も可)とのことであったが、低いとはいえない偽陰性率を考慮、また濃厚接触者(自宅待機者)が多いことによる人員不足もあり、当面は診療体制縮小継続の方針とする。入院患者も退院できる方はなるべく退院していただく方向で調整。

1月26日(火)

看護職員が、抗原検査陽性(1月24日夜勤、25日より発熱、頭痛、全身倦怠を発症)。
→再度全例PCR検査の予定となる。保健所の指示で28日検体採取の方針となる。

1月28日(木)

夕方、全入院患者全職員の検体採取。
同時に自宅待機になっている職員の出口検査を行う(いずれも陰性であったため2月1日より出勤可能となる)。

1月29日(金)

13時頃、前日のPCR検査の結果、入院患者3名、介護職員1名の陽性が判明。
中予保健所管理下に感染制御を行っていくこととなる。
17時頃、保健所より6名(陽性者の情報聴取班と感染拡大防止対応班)、愛大田内先生来院。詳細聴取、濃厚接触者の設定(入院患者は全員濃厚接触者として14日間経過観察)とゾーニング、今後の方針を協議。

「感染者の治療はコロナ感染症治療専門病院にお願いして、濃厚接触者の中から新たな発症者が出ないかどうか慎重に経過を追っていく」という方針で、クラスター収束を図る方針となる。

18時半頃、保健所より感染対策物資(予防衣、マスク、手袋、フェイスシールド)到着。
19時頃、職員に全容を説明。
30日の感染者搬出まで感染者の病室をレッドゾーンとし、レッドゾーンは専属対応とする。その分夜勤看護師を一名増員。

22時頃、県立中央病院濱見先生より3名の感染者の搬出手順についてご連絡あり。
22時半頃、保健所所長より、クラスター認定の連絡。県知事から30日15時頃に「松前町の医療機関でクラスター発生」との内容の発表となるとのこと。

23時頃、当院ホームページに情報公開。
24時頃、中予保健所と感染者搬出の詳細の打ち合わせ。

1月30日(土)

「日勤看護師1増、ヘルパー1増」体制に変更とする。イエローゾーンを看護介護担当者に、物品の仕分け、電話対応等グリーンエリアの業務をリハビリスタッフに担当させることとする。
午前8時、消防署と打ち合わせ。ピストン輸送で3名を搬出する方針。
当院駐車場に2台、人員6名ほどが常駐し搬送司令本部になることに。
正午頃、 感染者3名の搬送完了を確認して、消防隊搬送司令本部解散。
12時頃、病院前にテレビカメラが現れる。
15時、県知事より公表される。以後、夜間まで問い合わせの電話が多数あり。

院内の原因不明の発熱者はレッド対応でいくことと決める。発熱者は随時PCR検査を追加し、感染状況を慎重に把握する方針。

このころ入院高齢者の一部に拘禁反応と考えられる不穏や過呼吸発作、うつ病の急性増悪が現れる。

1月31日(日)

緊急体制として「日勤は通常比較で看護師1減、ヘルパー1減」で月曜日以降の勤務調整。
看護師、ヘルパーにレッドゾーン、イエローゾーンを主に担当させる。
リハビリテーション科から交代で2名ずつ出勤してもらいグリーンゾーンでの業務、買い出しや荷物の受け取り、検温結果集計などを担当させることとする。
病棟の発熱者1名および19日以降に退院された3名のPCR検査施行 →全例陰性

2月1日(月)

濃厚接触者として自宅待機していた職員が現場復帰。

2月2日(火)

全職員全患者対象のフォローアップPCR検査。

2月3日(水)

15時、全例陰性との連絡あり。次回全体検査は2月12日の出口検査の予定となる。
→レッドゾーン消失。

2月5日(金)

14時、愛大田内先生、松山記念病院感染症認定看護師林さん、および中予保健所から2名来院。現況の確認をしていただくとともに、感染対策や看護方法などにおける疑問点に対しアドバイスをいただく。これにより現状の対応を継続することでクラスター収束に向かえそうだと希望が見える。

2月8日(月)

発熱、咳等の症状のある4名PCR検査 →いずれも陰性

2月10日(水)

発熱者1名PCR検査 →陰性

2月12日(金)

午前中、全入院患者全職員対象のPCR検査検体採取。
18時 全員陰性の結果を得て、クラスター収束の認定となる。ホームページに公表。

2月13日(土)

午前中にゾーニング解除。
手指消毒、環境整備徹底を継続し、引き続き慎重に診療を行っていく方針とする。

2月15日(月)

新規入院受け入れ再開。

2月22日 (月)

外来リハビリテーション受け入れ再開。

 

 全経過を振り返って 

新型コロナウイルス感染症が日本に入ってきて以来、いつ院内クラスターの当事者になるかわからないと常に危機感を持って医療に当たってきたつもりでした。院内でもマスク、フェイスシールドの着用徹底、検温手洗いうがいの励行、濃厚接触者の定義の確認、不要不急の外出自粛など、注意喚起もまめに行ってきたのですが、どこからか侵入した目に見えないウイルスに翻弄される結果となってしまいました。
1月17日の第一報以降、院内のどこでどれだけの感染者が出ているのか、徹底的に調べることを第一に初動。初動段階のPCR検査で全例陰性との結果ではあったものの、その後も入院患者数を極力減らし、新規入院受け入れは中止し、外来診療も大幅に縮小して慎重に推移を見守ったことが、結果的には功を奏したように思います。1月29日にクラスター認定となって以降は早期収束を最優先に、感染対策において徹底に徹底を重ねて臨みました。防護衣にかかった金額60万円(備蓄していた防護衣や保健所よりいただいた防護衣を除く。またそのほかの物品費用は除く)。医療廃棄物は段ボール149箱、894kgに及びました。徹底的にガウン交換等を行った結果なのですが、経過中にやややり過ぎとのご指摘もいただきました。ただ心構えとしてはたとえやり過ぎでも病院一丸となってやり過ぎをあえてやることで、クラスター規模を最小限に押さえ込めるのではないかと当時は祈るような気持ちで次の全体検査を待っておりました。しかしながら厳重な感染制御策は、入院患者さんたちに多大な心理的身体的負担を強いるものでもありました。今回のクラスターの当事者となった入院患者さんたちは異様な雰囲気の中、落ち着いて一緒に闘ってくださいました。骨身を削って耐えてくださった患者さんたちのことは生涯忘れません。