前立腺癌検診のすすめ

2003年6月、当時愛媛大学泌尿器科助教授で、当院泌尿器科非常勤医の西尾俊治氏が、松前町内で講演されたものを筆記したものです。(文責仲田)

松前町でも前立腺癌の検診が始まった。前立腺癌は比較的見つけやすい癌で、血液1滴とはいわないが、10滴あればすぐわかる。検査ができるようになり病気が増える結果になっている。
検診で異常値が出るとドキッとするが、そんなに心配要らないということもわかって欲しい。ある意味では前立腺癌は放っておいてもよい病気ともいえる。そう言ってしまうと仕事がなくなるが。
亡くなった方を解剖してみると、50歳以上の男性2人に1人に前立腺癌が見つかる。80歳過ぎでは90%にある。いわば人間の自然の成り行きともいえる。一方でなかには不幸にして骨に転移して亡くなる方もある。だから前立腺癌検診は必要だ。

1.前立腺肥大症と前立腺癌
前立腺の病気は前立腺癌、前立腺肥大症、前立腺炎の3つしかない。前立腺炎は症状ですぐわかるが、中年以降の男性では前立腺癌と前立腺肥大症はいっしょに存在している。おしっこが出にくい、夜間たびたびおしっこに行くという方は前立腺肥大症なのか、前立腺肥大症と前立腺癌が合併していないか、そこがなかなか難しいところ。
前立腺は20歳ではクルミ大だが、50歳、60歳になると小さめのミカンくらいになる。肥大症はミカンでいえば食べられる実の部分がなる。癌は皮の部分にできる。
ミカンの中心部を尿道が貫いている構造になっているので、肥大症は軽度でも頻尿・排尿困難などの症状が出やすい。反対に、癌では相当進んでからでないと症状が出ない傾向にある。
前立腺癌は骨が大好きなので骨に転移する。実際20年前には前立腺癌の6~7割は骨に転移してはじめて発見されていた。

2.前立腺癌は増えている
1950年代以降前立腺癌は急速にふえている。理由は人口の高齢化とともに、検査が簡単にできるようになったことである。本年1月には天皇陛下が手術をお受けになった。歌手の三波春夫さんは残念ながら前立腺癌で亡くなられ、娘さんが前立腺癌検診の普及のための基金を作られた。プロゴルファーの杉本さんは手術後も元気にプレーしている。

3.前立腺癌になりやすい人
世界中を見ると、統計では日本とかアジアは非常に少ないが、アメリカ人には非常に多いことが分かる。すこし古いデータになるが、1955年、人口10万人あたりで見ると日本人では10人が前立腺癌になっていた。ハワイの日系人は約30人という結果になっている。すなわち環境の変化、高脂肪の肉類を若い時から食べていると前立腺癌になりやすいということである。アメリカ人、なかでも白人よりもアメリカに住む黒人は前立腺癌になりやすい。人種によっても違いがあるということである。
昔、日本では前立腺癌は非常に少なかった。私が医者になった頃は前立腺癌の手術は年に5人位だった。今は毎日のように大学で手術をしている。最近は非常に増えている。ひとつには1986年に血液検査で前立腺癌が見つかるようになったからで、これからは5倍くらい前立腺癌が増えると予測されている。
すでにアメリカの男性では、前立腺癌の頻度がトップで、2位が肺がんとなっている。死亡率では肺がんがトップであるが。

前立腺癌になりやすい人の条件をまとめると、まず年齢、高齢ほど増える。遺伝では、1番染色体に前立腺癌になりやすい遺伝子があることが分かっている。父親が前立腺癌の人の4割が前立腺癌になるというデータがある。しかも組織的に悪性の度合いが高いものが多い。こういった人には、通常50歳からの検診を、40歳からと勧めている。
人種・食生活については前に述べたとおり。
性生活では、若い頃に頻回の性交をしていた人が早くにやめた場合、前立腺癌になりやすいとする報告があるが、あてにはならない。

4.1次検診
一般には前立腺癌検診は50歳からの人を対象にしている。親・兄弟に前立腺癌があれば40歳。1次検診は簡単な血液検査、PSA(前立腺特異抗原)をしらべるということで、正常値の4ng/mlを超えると2次検診ということになる。
PSA値が20、50、100のように数値の大きい方は前立腺癌を疑う。前立腺肥大症でも大きくなるとPSAは高い値が出る。ここが難しい所で、数値が4~10はグレーゾーンという。数値だけでは前立腺癌かどうかは分からず、グレーゾーンで前立腺癌の確率は約2割で、数値が10を超えると癌の確率は7割になる。4以下でも1割は癌の確率がある。

5.PSA(前立腺特異抗原)
PSAは人体の中で前立腺しか作っていない。手術で前立腺を取ってしまうと、完全にゼロになる。この場合は、正常値は4ではなく、ごくわずかでも検出されたら転移があるということになる。
精液中には血液の1000倍の濃度のPSAが含まれているので、検査の前日に射精するとPSAの値は1割高く出る。
前立腺炎や尿閉(膀胱にたまった尿が出なくなる)になると、以後1ヶ月間はPSA高値になるので、測っても意味がない。

6.2次検診
1次検診でPSAが4以上に出た場合、2次検診では ①直腸診 ②超音波検査(エコー) ③生検 の3つを行う。
直腸診はお尻に指を入れて癌を探すわけで、癌は拳骨の骨の様に硬く触れる。前立腺肥大症は親指の付け根のように柔らかい。しかし、0.5mm、1mmのものは触っても分らない。肛門からでは触れることのできない前側や中側に癌がある場合も3割ある。
超音波検査は、やはり肛門からプローブという棒状の器械を挿入して前立腺の断面を見ることができる。
指かエコーで分からないものは細い針のような物を使い前立腺に均等に8ヵ所組織を採り組織検査を行なう。これを生検といい、その組織に癌細胞が見つかれば治療を開始する

PSAが高いにもかかわらずこれら2次検診で異常が見つからない場合は、定期的にPSAをはかり、さらに上昇するようであれば再度生検することになる。

7.治療法
癌が見つかった場合、MRIとかCT、シンチグラムでどこまで進行しているのか調べる。癌が前立腺の中だけにあるのか、前立腺の外のリンパ節あるいは骨に転移しているかどうかをみて、どういう治療がいいのか調べる。
前立腺の中だけでしかも癌細胞がわずかの限られた癌は、一般的には手術になるが、75歳以上の方はお腹を切っての手術はしない。月に1回、3ヶ月に1回の抗がん剤の注射でコントロールが十分できる。前立腺癌はゆっくりとしか進まない。おとなしい癌細胞の場合は何も治療しない場合もある。10年経っても15年経ってもそれで死ぬことはないからである。
癌が前立腺の壁を越えてしまっている場合は手術はしない。放射線療法は今注目されていて、もし私が前立腺癌になった場合は手術より放射線療法を選ぶと思う。前立腺の形の3次元立体構造を画像で処理して、癌だけに放射線を当てることができる時代になった。手術をするのと同じ効果である。

まとめると、前立腺癌の局所に対する治療は、手術・放射線いずれも生存率(治癒率)はほぼ同じである。手術すると勃起にかかわる神経を傷つけることがあり、気をつけてこの神経を残した場合でも3~4割しか勃起しない。
このほかアメリカではブラキセラピーといって、粒状の放射性の物体を埋め込む治療が主流になりつつある。

以上の局所療法に対して、全身療法がある。脳下垂体に作用して、前立腺癌の栄養になる男性ホルモン(テストステロン)が精巣から出なくなるようにする注射を3ヶ月に1度する。これに加えて、副腎から出されるアンドロゲンをおさえる薬をのむ。
理屈から言えばこの全身ホルモン療法だけで癌は治るはずだが、癌細胞は32通りの方法で変化して生き延びようとする。癌組織の中の0.5%の細胞はこの治療に反応せず、着実に増殖するが、少なくとも最初の1年間はドラマチックに効果がある。

前立腺癌にはいくつかの治療の選択枝があることをお話してきたが、患者参加型の治療法決定のサイトがあるので、ご覧いただきたい。 http://www.ccijapan.com

8.前立腺癌検診は癌発見率が最も高い
1次検診でPSA検査をすると、受信者1000人あたり12人の異常が見つかる。胃癌・肺癌などその他の癌検診の異常発見率は2人以下である。
その検診でたまたま癌が見つかった場合、前立腺だけにしか癌がなかったという確率は6割ぐらい、前立腺の壁を越えている方が2割、骨に転移してる方が2割である。
一方で、病院の外来を受診されて前立腺癌が見つかった場合、すでに転移がある確率は6割である。

今日の合言葉はPSAでした。

 

質問: PSA10くらいで2次検診を受け、癌が見つからない場合どうするか。
回答: 3ヶ月ごとにPSAを調べ、グラフにプロットして、1年間に0.75以上上昇していたら、癌が疑わしい。再度検査する。

質問: 検査は大病院でするのがよいか。
回答: 1次検診のPSAは血液検査だから、何科でも、かかりつけの医療機関でできる。
2次検診の直腸診・超音波検査・生検は、泌尿器科医のいるところ、松前町なら松前病院か武智泌尿器科でできる。

(講師:西尾俊治)

2003年当時の西尾先生